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Sep / Oct
JTB USA, Inc. 桐原支店長インタビュー
JTB USA, Inc.
サンフランシスコ支店長
桐原 幹斉

・人生の半分以上をカナダで暮らす
在加(加奈陀)32年、JTBカナダに25年勤務し今年の1月1日にJTBサンフランシスコ支店に着任した。北米に在住であれば、ぜひカナダに行く機会を作った方がいい。特にカナディアンロッキーとフランス語圏のケベック州はUSAにはない場所。カナディアンロッキーは6月下旬から9月中旬がおすすめだが、The Canadaと言っても過言でない大自然の景色が広がるバンフ国立公園は多くのアメリカ人が訪れている。また、10月中旬のケベックの紅葉の美しさは比類ない。モントリオールは食事も格別においしい。カナダに興味のある方はぜひお声掛けしてほしい。仕事抜きでいろいろご案内する。

・現在の仕事について
教育旅行に注力している。日本の進学校、東大進学率1、2を争う中学、高校の団体が「グローバルキャリア研修」と銘打って、現地で大学や企業の方々から、レクチャーを受けたり、コミュニケーションを持つプログラムを設けている。中でもスタンフォード大学のキャンパスツアーが多く、日本人在校生と一時間ほどキャンパスを回りながら入学するまでの話、学生生活、何を勉強しているかなどを聞くプログラムに人気がある。
◎教育旅行はどのような内容か?
長いツアーは中4日あり、その間日本から入念な準備をしてきて英語で現地の投資家やスタートアップにプレゼンをするピッチ体験などもある(因みに期間中生徒はゴールデンゲートブリッジ観光ぐらいでほぼ勉強ばかり)。あくまで体験学習ではあるが、学校の中には将来を見据えて限られた時間で如何に自分を売り込むかという本格的なトレーニングをしている。JTBとしてはそのようなプログラムを(時に無償で)受け入れてくれる現地の投資家や経験のある方を探している。
その他には楽天(RakuNest)のオフィスツアーや、日系企業がシリコンバレーでどのような取り組みをしているかといったこと、Plug&Play、グーグルやアップルのエンジニア、UCバークレーの教授などとの対話などのプログラムを用意。
◎教育旅行を始めようと思ったきっかけは?
この研修旅行は、JTBはもとより世界でも新しい事業。コロナ禍でR&Dを兼任していた前任の支店長が様々なネットワーキングを行っていた際に「これはすごく面白いのでは」となり、考案された。元々は法人相手に考えていたプログラムだが、意外にも教育団体のほうで取り上げられ、ニーズが高まっている。これまでの美術館や遺跡などを巡る観光旅行とは異なる、シリコンバレーという特殊なエコシステムに(大きな旅行サービスの)魅力があった。ここベイエリアにアップル、グーグル、テスラなど世界を席巻している企業の本社が集まっているという事だけでもすごい事。スタンフォード、バークレーなどの存在から、教育、大企業、VC、スタートアップへと連なる関係を知らない多くの日本人がいる。
また、将来は海外で仕事をしたい、海外で起業したいという学生がいる。前述のピッチ体験した後、VCに自分で立ち上げている事業のピッチをする学生もいる。現状、JTB手配の視察や訪問は受け入れ側にメリットがないが、中には(体験的な)ピッチを熱く批評してくれる方もいるので、受け入れ側に丁寧にレターを書いてふるいに掛けてもらい、メリット無しでも日本人を受け入れてくれる方を大切にするというのが今の自分の仕事のひとつであり腕の見せどころ。教育ツアーはまだ始まったばかりだが、2024年は既に15校実施した。一番人数が多かったのは170人の団体。
そして、JTB手配でシリコンバレーの企業視察する日本からの企業のほとんどは投資、買収などの目的でなく、知見を広げるため。しかし、そういった団体のみなさんも、ただ「楽しかった」で終わらず、「想像以上にすごい所だった」というコメントが多く、シリコンバレーの余りあるポテンシャルの高さを感じる。
・事業関係について
法人旅行、観光観光、教育旅行のポートフォリオについて、残念ながら観光観光は、昨今の円安の影響と、ベイエリアの物価高で殆ど戻ってきていない。これは新型コロナウイルスの感染拡大とは別の問題で、費用が高すぎて行きたくても行けない人が多い。懸念されている治安については正確な情報を発信するようにし、それほど大きな問題ではないと案内している。研修旅行を含む法人旅行は物流系の強いLA方面もだいぶ戻ってきている。シリコンバレーはIT系企業の関心が高いが、円安、物価高により大きくは増えていない。やはりが集客という観点だけでいうと、エヌビディアやグーグルなどの大手企業にもっと容易に視察が出来るようになればいいが、受け入れ側にメリットがない上でなかなか容易ではない。
・今後の事業展開や目標または取り組みなどがあれば
コロナの影響で受け皿を小さくしており、(需要の)戻り方があまりにも早いと受け入れ側も苦しい状況ではある。ただ、今やっていることの規模を大きくしていきたい。観光旅行の戻ってきてくれる事を願っているが、やはりそう簡単にはいかない。サンフランシスコ支店にいる7名のスタッフのうち3名はアウトバウンド対応で、自分含む4名がインバウンド対応。あとはR&D担当のJTB社員2名がRakuNestを拠点として活動。皆でベイエリア、シリコンバレーの最新情報を日本に送っている。自分の守備範囲はベイエリア、ナパ、レイクタホだがタホにはまだ行ったことがないので是非行ってみたい。
・地域社会に貢献していることがあれば
日本人以外の旅行も手掛けるようにしている。観光だけではなく結婚式や宴会などのMICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition/Event)事業に力を入れている。競合他社は現地支店をどんどん閉鎖しているようだが、JTBは敢えて各所に人を送り込み現地の新たな魅力を日本に発信し、ビジネスの活性化という意味でNon-Japaneseのビジネスに関わっている方にも情報を送っている。ロサンゼルス、オーランド、ハワイの各拠点にJTBスタッフが集まってボランティアをするBright Earth Project (Brighter Earth and Our Future)という活動も行っている。更にSDGs、ジェンダーレスなど今の社会的な現象にも敏感に、真摯に対応していて、これらはいい方向に動いている。
・ご家族について
カナダに自宅があり、妻と2人の成人の息子が在住。家族全員仕事を持っており、自分が何年アメリカに滞在するかわからない状態なので単身赴任でこちらに来ている。3,4か月おきにカナダに戻ったり、妻がベイエリアに遊びにくる。

・コロナ禍でのチャレンジについて
多くの人と同様にコロナにおける最大のストレスは、いつ終わるかわからない事だった。2003年の2月にトロントであったSARSはその年の7月に終結宣言がだされたので、コロナ禍も半年くらいで終わると思っていた。ちなみに、SARSの終焉を告げるためにトロント市が開催したのがローリング・ストーンズやAC/DCがヘッドライナーを務めた大規模な野外ロック・イベント“トロント・ロックス”。いかにもカナダらしい対応で、カナダをもっと好きになった。実に50万人の人が集まった大コンサートだった。そのような経験から、コロナ禍の当初は夏には終わるだろうと楽観視していて、オフィスのファイル整理などをして乗り切ろうと話し合っていたが、どんどん深刻になって行き、SF映画のように街に人がいなくなった。これは異常事態だと気づき、観光客がいなければ成り立たない業界のため「社としても本格的に何かをやらなければ」とアイディアを出し合って決めたのが、自動音声ガイダンス。バスでカナディアンロッキーを巡る際、多言語(日本語、英語、マンダリン)でガイドを提供する試みで、プロジェクトリーダーとしてその脚本を作った2年間だった。自分がスマホのカメラで観光地をライブ中継するオンラインツアーも試みた期間だった。
・パンデミックで旅行業界はどのように変化したか、現在業界全体どのような傾向にあるか。
元々、旅行のリスクとして海外は危ない、怖いと思っている人は少なからずいる。修学旅行で行ってもその後2、3回目以降は無い事が殆ど。その限界を知った上で商売をしないといけない。リスク分散のために日本人以外の顧客に対する商売、取り組みを大きくしている。内向きの日本人に比べ旅行をする人が多い。
更に現在の米ドル、ユーロ高。日本の経済の問題でもあると思うが、団塊の世代も体力的に旅行ができない年代になってきている。今の若い人も海外に行く経済的、時間的余裕がなくなってきている。非日常を味わう旅行に必要なのはお金、時間、健康。もはや日本人で容易に旅行できる人のほうが少ないのではないか。そういった中、実際に旅行が出来る層に近づいていったほうがいい。例えば駐在や留学で海外にいる家族に会いに行く等の”旅行せざるを得ない方”や富裕層を対象にセールスを行っていく。
また、日本にインバウンドで来る中国人観光客を受け入れているのは中国系企業がほとんど。税金を払ってくれるので観光立国としての良さはあるが、中国資本の会社が中国人に対応しており、日本のバス会社やホテルは立ち入れない雰囲気がある。カナダも同じ状態ではあったが、ガイドは日本人でも、ホテルやレストランはカナダ企業という事で現地でお金が回っていた。どこでどうお金を稼ぐか難しい時代になってきていて、日本人以外をターゲットにしたビジネスをしたほうがいいのではという展開になっている。80、90年代に比べると旅行をしてくれる日本人が圧倒的に少ない。JTBとして最も収益の大きかったハワイも物価高、更にコロナで輸送コストが高騰し、以前のようにリピーターが簡単に訪れる場所ではなくなってきているが、逆に今は日本国内旅行のほうが人気がある。
・ご自身で体験された旅行中の面白いエピソードなどあれば。また、旅の魅力とは?
アウトドア全般、特にハイキングとスキーが好きで、ペルー、インカトレイルに行った。エジプトにも行ったが、特にエジプトでは新たな旅の魅力を知った。旅というのは飛行機、ホテル、土産物屋、レストラン等受け入れる側があってのもの。そして、それらは国籍や客の種類によって当たり方違うという事に気づくのに時間が掛かった。エジプトではタクシーもぼったくりで、一度運転手を諭した事もあった。個人旅行だとソンビのように襲来する物売りにも付き纏われるので現地ガイドが必須だが、自分は逆に彼らのむき出しになる本性の中に優しさを見出しつつ、引っ掛かりながらも色々な話をするのが旅の面白さであると思っている。
旅にはストーリーがある。新婚旅行での夫婦ゲンカ、成田離婚、現地に到着してから意見の纏まらないグループ旅行等、旅行中にはその人の違った面が見える。人と旅行するのは簡単そうに見えて実は難しい。コツは必ず事前に予定を決めておく事。もしくはパッケージツアーに参加すること。予定を決めずに出発すると旅先で事あるごとに意見の食い違いが起き、ときには大揉めになる。個人的にベイエリア在住の皆さんはカナダに行かない手はないと思っている。アメリカにも雄大な大自然はたくさんあるが、厳しく長い冬のあるカナダの大自然はアメリカとはまた大きくことなる魅力に溢れている。(聞き手: 広報委員会)
総領事館より
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