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2025 March / April Edition

駐在

Mar / Apr

広報委員会

駐在員マメ知識「番外編」

本当にあったFraud Call(詐欺電話)劇場〜いきなり国際指名手配されたワタシ

U.S. Bank

Sales & Program Manager

水戸 英輔

こんにちは!JCCNC広報委員のオールドルーキー、ミト@U.S. Bankです!

4回目となる駐在員マメ知識は番外編ですが、前回までの内容もこれを機にご一読を!

1回目:W-9とW-8BEN

2回目:銀行口座の種類と使い分け

3回目:アメリカのクレジットスコアって何?


はじめに

最初にお断りしておきますが、これはただの...でも本当にあったアメリカでの詐欺電話のやり取りです。そこそこイイ加減な国であるアメリカなのに、そこに込められた情熱と脚本、演技とシナリオ構成力は、もはや日本の振込詐欺レベルに達している(?)といっても過言ではないでしょう。


そして、米国生活に慣れてくるとともに英語にも慣れてきたころに、こういう電話がかかってくると、簡単に巻き込まれてしまうこともあるかもしれません。


この話は、最初から詐欺電話だと判断したうえで対応したものですが、基本的には「知らない電話には出ない」がアメリカでの鉄則です(本当に重要な用事がある場合は、留守番電話が残るはずです)。


もしも、このような電話に対応してしまったら、覚えておいてください。

絶対に、銀行のコールセンターが怪しい口座の持ち主に電話をかけたり、警察に転送したりすることはありません。


それでは、Fraud Call劇場のはじまりはじまり〜


序章:週末の昼下がりの電話

その電話は、ある平日の午後にかかってきた。表示された番号には心当たりがない。まあ、よくあることだ。出てみると、女性の英語音声が落ち着いたトーンでこう言った。


「こちら、Bank of Americaのカスタマーサービスです。あなたの口座で不審な取引がありましたのでご連絡しています。」


ん? いやいや、僕、Bank of Americaなんて使ってないけど?あまりに身に覚えがなさすぎて、これは詐欺電話だな、と確信。「BoAなんて使ってないっス」と冷静に伝えて、すぐ電話を切った。

——普通なら、ここで終わり。

だが、数分後に同じ番号から再び着信。ここでひとつのアイデアが浮かんできた。


「どこまで話が膨らむのか、聞いてみようじゃないか。」

ということで、あえて“Fraud Call劇場”に乗っかってみることにした。


第1章:偽口座の発覚と銃火器の影

電話に出ると、さっきと同じ声の女性が真剣なトーンでこう続けた。


「もしかすると、誰かがあなたの個人情報を使って偽の口座を作成した可能性があります。この口座をすぐに閉鎖する必要があります。フラウド担当におつなぎします。また、私のBank of Americaの社員番号と名前はXXXXなので、転送先でお伝えください。そうすれば話が早いです」


転送音のあと、登場したのは男性。若めの声。


「はいはい、XXXXね、了解。……なるほど、偽口座ということですね。これはいけません。すぐに閉鎖手続きをとります。すいませんね、ご迷惑をかけて」


とてもスムーズで手慣れた対応。が、その数秒後、空気が変わる。


「むむ……!この口座で怪しい取引が行われていますね!……違法な銃火器の購入履歴が確認されました!これは簡単に閉鎖できません国土安全保障省に共有しなければいけないレベルです。お客さま自身も含めてさらに確認する必要があります!」


……マジか!すごい展開だな。ここまでで「詐欺だな」ってことは確定していたが、それでも続きが気になってしまうこの構成力と演技力。まるで深夜ドラマ。


第2章:(なぜか)ワシントンDC警察に転送、ホセ巡査の登場

「こういった怪しい口座を閉鎖するには“Clearance Release(?)”という警察が発行する書類が必要です。これはお客さま自身が警察に発行を依頼するものです。ええ、大丈夫です、私から警察に今伝えますので、少々お待ちを。(待ち時間5分ほど経過)はい、今から警察に転送するので、口座番号とお名前をお伝えすればすぐに発行してもらえますよ!では、転送します!」


頼んでもないのに、電話が転送されると、次に出てきたのが


「こちら、ワシントンD.C.警察のホセ、ホセ・ガルシア巡査です。」


これで3人目、なかなかの組織犯である。そして、これからこのホセと長い長い会話を続けることになるのであった。


「この電話が本当に警察と繋がっているのかどうか不安ですよね、最近、詐欺電話が多いので。では証明しましょう。Googleで“Washington DC Police”を検索し、公式ページにある電話番号を見つけてください。そう、その番号です。そこに掛けてください。私が出ます。」


は? マジで?と思いながらも、試してみた。本当に“ホセ”が出た


声もテンションも完全一致。これは番号を乗っ取ってるのか、電話転送か、どんなテクニックかはわからないが、とにかくアメリカらしからぬ「本物感」の演出がすごい。


第3章:特別対応と偽住所提出


しかし、その後ホセはとんでもないことを言い始める。


「書類発行には、ワシントンD.C.署への出頭が必要です。え?カリフォルニア在住?それは困ったな。うーん、出頭しないと偽口座といえども口座保有者であることを国土安全保障省に伝えなければならない。。そうするとあなたが保有している他の口座やカードも一旦ロックされてしまいます。それは困りますよね。ちょっと上司に掛け合ってみます」


そして、ホセは畳み掛けるように「いいやつ感」を出してくるではないか。


「嬉しい知らせです!今回はあなたの事情を考慮して“特別対応”が適用されることになりました。我々から書類を送るので、署名して返送してください。」


詐欺電話ではよくある、人の感情を上下に揺さぶる「あなたは特別」演出

そしてそのまま、「それでは、書類送付のためにご住所をお願いします。」


もちろん、偽の住所を伝えると、ホセは

「サンキュー、サー!いまから手続きを始めるので少々お待ちを」


しかしここからの展開が、記憶に残る名シーンに繋がるのであった。


第4章:突然の無線入電、そして国際指名手配

そこで突如、電話の向こうから無線のようなザザッというノイズが入る。柳沢慎吾の警察24時レベルの本物感である。そして無線の声が叫んだ。


「ホセ!その男は、その男は!……これから数週間後に秘密裏に国際指名手配される『予定』の人物だぞ!!!」


まじか!「予定」ってなんだ?それに万が一本当だったらそれは俺に聞こえちゃいけない話なんじゃないか?この脚本は誰が描いてるのか?これはすごい展開になってきたので、もっともっと聴きたくなってしまう。


第5章:司法取引の誘い、そしてスカイプへ

ホセは、上司(無線の男)と少し話す必要があるので時間が欲しい、といい、そこから10分(長い)。そしてホセが電話に戻ってきて静かに喋り始めた。。


「なぜ。。なぜ、本当のことを言わなかったんだ?この口座も偽口座ではなくお前が作った口座なんだろう?市民を守ることを誓った人間として一瞬でもお前のような悪党を信じたオレがバカだった。本来であればお前のような人間は許されざる身なのだが、我々側につくなら、話は別だ。つまり、司法取引に応じるなら、助かる道がある。」


えー、司法取引!?どんどん大きくなる話に必死についていきながらも、これをどう収束するのかを知りたい一心で

「しかたない、了解です。ディールしましょう」と回答。


するとホセは、

コングラッツ(なぜ?)。ではキミはこの極秘プロジェクトの一員として迎え入れよう。まず、Confidential Agreementにサインしてもらいます。」


これも詐欺電話アルアルなのですが、次の一言で吹き出しそうになった。


「そのサインのやり取りは……スカイプで行います」

「スカイプ!?なんでやねん。」ZoomでもTeamsでもない。今さらスカイプ。

レガシーすぎる。と思いつつも、おそらくスカイプは捨てアカウント等が作れて足がつかないのだと思われる。


第6章:要求拒否、激昂のホセ

なんとかスカイプをダウンロードしてホセとつながり、しばらくやり取りした後、

送られてきたのが「Confidential Agreement.pdf」。


そして、ホセから最後の要求が飛んでくる。


「さて、スカイプで顔を見せてもらおうか。」

「え、司法取引と関係ないでしょ?住所とか伝えたじゃん」

本人確認が必要なんだよ!」


さすがに顔見せはリスクが高いので、ボクはついにこう言ってみた。


「これ、そもそもフラウドコール(詐欺)ですよね?ホセ・ガルシアって本当はいないんでしょ?」


すると冷静だったホセは突如として激昂


「な、なにを言い出すんだ!詐欺なわけないだろう!こんなに長く話してるんだぞ!」

いますぐ逮捕しにいくぞ!いいのか!?」


なつかしの銭形警部みたいなテンションです。


最終章:別れのとき

そんな激昂するホセの相手をしたいものの、こちらも時間切れ。そろそろ現実に戻らなければいけない。


「ごめん、もう行かなきゃ。長い時間ありがとう。勉強になりました」

「お、お前!Confidential Agreementを忘れたのか!?サインしなければ取り返しのつかないことになるぞ!逮捕されるんだぞ!」


でももう十分だった。


「Thanks for your entertainment. Good luck.」


その瞬間、電話越しにホセの最後の激昂が聞こえた。


「No!! Wait!!!!」


そして、通話は切れた。ごめん、ホセ。


あとがき

今回の出来事は、一歩間違えれば実被害につながっていたかもしれない詐欺電話でした。

もちろん、今回は最初から「これは怪しい」と判断したうえで「あえて“乗ってみる」という極めて特殊な対応をしましたが、誰もが同じように冷静でいられるとは限りません。


むしろ、途中で出てきた「あなたは特別扱い」「国際指名手配」「司法取引」「顔出し確認」などは、非日常と緊張を同時に植え付ける演出として非常に巧妙です。


感情を揺さぶり、時間を奪い、徐々に判断力を奪っていくのが、こうした詐欺の手口。

あらためて、「絶対に詐欺に引っかからない」などという過信は危険だと感じさせられました。アメリカでは、詐欺の手口も電話、テキスト、ダイレクトメールと多様です。

本件のように手の込んだものもあります。


ぜひ、NY総領事館の注意喚起ページも参考にしてください

👉 https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00921.html


米国生活に慣れてきた今だからこそ、改めて気を引き締めて。

それでは、安全で楽しい駐在ライフをお過ごしください!

©2020 by Japanese Chamber of Commerce of Northern California. 

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